芙蓉


 風呂場を出ると、ひやりと吹く秋風が、袖口からすうと這入って、素肌すはだへそのあたりまで吹き抜けた。出臍でべその圭さんは、はっくしょうと大きな苦沙弥くしゃみを無遠慮にやる。上がり口に白芙蓉はくふようが五六輪、夕暮の秋を淋しく咲いている。見上げるむこうでは阿蘇あその山がごううごううと遠くながら鳴っている。
「あすこへ登るんだね」と碌さんが云う。
「鳴ってるぜ。愉快だな」と圭さんが云う。

夏目漱石 「二百十日」から

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