人参


 この外いたずらは大分やった。大工の兼公かねこう肴屋さかなやかくをつれて、茂作もさく人参畠にんじんばたけをあらした事がある。人参の芽が出揃でそろわぬところわらが一面にいてあったから、その上で三人が半日相撲すもうをとりつづけに取ったら、人参がみんなみつぶされてしまった。古川ふるかわの持っている田圃たんぼ井戸いどめてしりを持ち込まれた事もある。太い孟宗もうそうの節を抜いて、深く埋めた中から水がき出て、そこいらのいねにみずがかかる仕掛しかけであった。その時分はどんな仕掛か知らぬから、石やぼうちぎれをぎゅうぎゅう井戸の中へし込んで、水が出なくなったのを見届けて、うちへ帰って飯を食っていたら、古川が真赤まっかになって怒鳴どなり込んで来た。たしか罰金ばっきんを出して済んだようである。

夏目漱石 「坊っちゃん」から

「坊っちゃん」の主人公は親譲りの無鉄砲で損ばかりしているが、いたずら者でもあった。その反面正義感が強く、正直一途な人物。単純な性格だが純粋さがある。

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